われ巣鴨に出頭せず

われ巣鴨に出頭せず
工藤 美代子著
日本経済新聞社 (2006.7)
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ISBN:4532165636
価格:\2,310
 その高貴な出自と戦争不拡大政策が破綻をきたし東条英機に政権を譲ったことなどからどうしても「弱い」イメージが付きまとう。本書はそのイメージを払拭しようと書かれた作品。なにしろ本編最後の文章が”決して弱くなかった貴種の、終戦の日が来た。”と書かれている。
 確かにこれまで僕が持っていたイメージほど弱くなかったことはよく分かる。タダだからと言って近衛文麿にまったく戦争責任が無かったのか。戦争回避するために最善を尽くしていたと言えるのか。残念ながらそうとは言い切れないと思う。彼なりにいろいろ手は尽くしたと言うことはよく分かるし単なるお飾りに過ぎなかったお公家さんというイメージは払拭されたが結局はそこまででしかないと思う。
 もう一点むしろこちらが本書のメインだと思われるのが戦後の彼の扱い。
戦後マッカーサー元帥と対面した日本側要人の第一号は彼であるとする。またマッカーサーからは日本の憲法改正案作成まで要請される。ところがある時期から突然GHQの態度が変わり厳しい取調べを受けることとなる。
 突然の態度豹変の原因はGHQのある人物が出した「戦争責任に関する覚書」に木戸幸一の責任を軽く書いた一方で近衛の責任を重く記したことにあると言う。さらにこの覚えを記した人物はソビエトのスパイであったとも記している。
 この部分に関する記述は本書の最終第12章1章分割かれただけになっていて正直物足りないがこれ以上書き足すための史料がまだ見つかっていないと言うことなのだろう。
 戦前戦中のさまざまな事件、事変にもソビエトの影響が多く見られスターリンの手の中で日本は右往左往していただけとも取れる記述も多い。ただそういった記述を行うきっかけがユン・チアン著『マオ 誰も知らなかった毛沢東*1と言う点が少々気になる。
 この本は毛沢東が以下にひどい人間だったか、また彼の業績としてたたえられている部分もみなソビエトの術中で動いていたに過ぎないと記しているが、著者の毛沢東嫌いがベースにありそれに都合のいい史料だけを取捨選択されている可能性があり全面的に信頼の置ける本ではないと思われる。
 もちろんだからと言って工藤氏の主張が全面的に誤りであると言うつもりは無い。もっと史料の発掘が求められるがなかなか難しかろう。