報道電報検閲秘史〜丸亀郵便局の日露戦争

報道電報検閲秘史
竹山恭二著
朝日新聞社 (2004.12)
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 著者はTBSでニュース記者、ドキュメンタリー制作などを担当していた方。日本近現代軍史の史料として軍事郵便関係の史料を集めていて偶然、丸亀郵便局とその上位局であった高松局の間で交わされた”停止電報綴”を見つけたのが本書を書くきっかけとなった。その後局報電報に多く使われ解読の支障となっていた略語表も見つかり本格的に解読されることになる。
 今では四国の一地方都市というイメージの強い丸亀も当時は歩兵第十二連隊が置かれた軍都であり日露戦争の日本国内における最前線の一つであった。日露戦争は日本の報道史にとってもその発展に大きく寄与した分岐点であった。最新の情報をライバル紙よりも少しでも早く伝えようとする報道合戦が一層本格化したのがこの日露戦争であった。とは言え当時まだ電話は整備されていない。従って地方から東京にある本社へのニュース伝達のすべはもっぱら電報であった。その為最前線でった丸亀から本社へ逐一送られていたはずの日露戦争の状況を伝える電報。これが途中で検閲され、その一部若しくは全文が伝えられないまま葬り去られた。勿論それは軍事上秘匿すべき情報と言うことで配置された人数や派遣される日付、所属隊名、勿論配属先などは皆伏せられてしまった。従ってようやく東京に電報が到着し紙面に反映されたときはいろんな情報がそぎ落とされあっけない文章だけになってしまう。いったいどんな情報が秘匿されたのか。秘匿する際現場局と上位局でどのようなやりとりがあったのか、秘匿するか伝えるのかをどのような基準で判断されたのか、それがこの本の主役”停止電報綴”によって初めて明らかにされた。ってなわけでなかなか面白い本なのだがいかんせん見つかった”停止電報綴”は丸亀局の分のみ。それでも最前線の局なんだから他の局に比べれば面白いんだろうけど読み進めていくと同じような電報の同じような検閲処理の繰り返しばかりで途中からやや食傷ぎみになってしまった。しかも中途に検閲されているのを分かっていながらそれをほとんど批判できずにいわゆる”勝った勝った”の戦争賛美報道の批判を少し挟んで今度は戦争にかり出された兵隊達と郷土との間で交わされた手紙にターゲットが移る。これが後の太平洋戦争の時とは異なりほとんど検閲されず報道電報では伏せられていたはずの戦場の生々しい情報が実は逐一伝えられていたことが分かる。で、そこには人間味野阿月間の言葉で語られている分読んでいておもしろさもこちらが勝ってしまう。”報道電報の検閲”というこれまで語られることのなかったテーマを掘り起こした意義は勿論買うがそれがこの本のメインテーマになりきれていないところが惜しい。残念。