幕末あどれさん(ISBN:4569661092)

幕末あどれさん(PHP文庫)
松井今朝子

出版社 PHP研究所
発売日 2004.02
価格  ¥ 980(¥ 933)
ISBN  4569661092

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 あどれさんとはフランス語の青年を表す言葉。(adolescent)。時代はペリー来航から九年を経た文久2年。主人公旗本の二男、久保田宗八郎は幕府の講武所で剣の修行に励むが、あるきっかけから家を出、歌舞伎の立作家河竹新七(後の河竹黙阿弥)に入門する。もう一人の主人公は片瀬源之助は同じく旗本の次男だが久保田に比べると貧乏旗本と言われる立場で役につける見通しもない。彼は幕府が作りフランス人が指導する日本初の陸軍に志願する。一言で言えば幕末の医大の流れに翻弄される青年達の物語と言えようが話の方はそう単純ではない。武士をやめて歌舞伎作家になろうとする青年と陸軍を志願する青年、一見相反する二人だが根っこは同じ。歌舞伎作家になった久保田も兄の家を出る一時手段として歌舞伎作家を選んだだけで本当に武士をやめる決心が最初からあったわけではない。源之助も愛国心から陸軍を志願したわけでもない。ましてや早晩幕府がつぶれるなんてこれっぽっちも想像していなかったろう。鳥羽伏見で激戦が繰り広げられ将軍が逃げ帰ってきた時でもそう言う状態だった。時代に棹さすわけでもなく迎合するわけでもなくただただ日々を暮らしている二人だがやはり二人とも時代の流れに確かにのっていたのだなぁと、読み終わった後そう感じる。またこの二人の動きとは別に当時の歌舞伎界が政情や景気に左右され翻弄されている様もよく分かって興味深い。著者松井今朝子さんのサイトによると久保田を主人公にした続編”銀座開化事件帖”が2月に刊行されたばかり。こちらもさっそく手に取ってみたいと思います。