思想検事(ISBN:4004306892)

思想検事(岩波新書 新赤版 689)
荻野富士夫著

出版社 岩波書店
発売日 2000.09
価格  ¥ 693(¥ 660)
ISBN  4004306892

bk1で詳しく見る オンライン書店bk1
 以前、佐藤卓己氏の言論統制*1を読んだ際*2コメント欄にて墨田ペトリ堂さん*3に薦めていただいた本。
 戦前の言論統制思想統制といえば我々はすぐに特高(=特別高等警察)を思いだす。しかし取り締まる側には警察だけでなく検察も判事もさらに刑務所に携わる人たちもいる。この本では特高にばかり注目が行き忘れがちな思想検事を取り上げられた本。ペトリ堂さんが感じた部分と同じかどうか分からないが僕も読後あまりいい気分にはなれなかった。それは、終戦GHQの人権指令と言う外圧によって特高が解散させられ全特高関係者が罷免させられたにもかかわらず思想検察の方はなぜか見逃され、戦後の公安検察へと継承されたと言うところ。ではこの公安検察が共産党学生運動あるいは新左翼らとどのように対峙していたのかは同じ著者による”戦後治安体制の確立”*4を読まねばならないようだ。
 この本を読んでもう一つ気になることがあった。ご承知のように治安維持法は1925年、普通選挙法と時期を同じく成立している。その対象はどんどん拡大解釈され戦前の暗黒時代を生み出したイメージがある。実際もそうなんだろうが但し、治安維持法は、1934、1935年と二度改正案が廃案になっている。結局のところ1941年には全面改正がなされているしそれまでの間も検察警察一体となり自らの都合のいいようにその法解釈を拡大していった過程もよく分かるのだがだからこそ二度の廃案にはいったいどのような事情があったのか。政府のいいなりにはならない反対勢力が当時はまだあったと言うことなのだろうか。新書という限られた紙幅では全てを言い尽くせないのだろうがだからこそ余計に気になる。