千秋楽(らくび)の酒(ISBN:4062058960)

 演芸評論家、テレビ評論家として活躍する吉川潮氏(立川流顧問なんて肩書きもあるな)、加えて芸人の評伝小説もいくつか書いているが本作もその流れにのる短編集。(というか刊行時期、発表時期を考えるとそのシリーズの初期に属する作品)。評伝小説とやや趣を変えているのは芸人本人よりむしろ彼らが立つ(立っていた)寄席を柱にそこに立つ芸人の姿を追う形を取っていること。(中表紙には、”寄席小説集”という副題も付いている)以下掲載順に収録作品を列記すると
本牧亭暮色(旧本牧亭
・梅田恋時雨(うめだ花月
大須望郷唄(大須演芸場
・池袋二人酒(旧池袋演芸場
・末広番外地(新宿末広亭
・浅草祭囃子(木馬亭
・ホンジャマーの帽子(浅草松竹演芸場

 どれもみなしみじみとした味わい深い作品ばかり。故春風亭一柳を元同門の川柳川柳師と筆者が語り合う”池袋二人酒”など読んでいると川柳師匠を見る目が代わってきそうだ。短編集で全部読むのにそう時間がかからないので是非手に取ってみてください、と書きたいところなのだが実はこれ単行本絶版、未文庫化。刊行元の講談社が見捨てるのなら最近氏の作品を多く出している新潮文庫でも落語関係のラインナップが充実しているちくま文庫でもどこでもいいからぜひ簡単に読めるようにしてもらいたい。<(この本も含めて)本は図書館で借りてばかりの人間が言うことではないけど。