脱出記〜シベリアからインドまで歩いた男たち
脱出を決心させたソビエトの人を人とも思わない扱いの苛酷さもすさまじい。
脱出行程の苛酷さも勿論すごいのだが、”幸い”にもソビエト軍追跡から完全に逃れられたこと、砂漠に住む人たちの暖かいもてなしを受ける部分などを読むと不謹慎ながらちょっとほっとしてしまう。
脱出した仲間との諍いや争いがほとんど無かったこともこの脱出を成功に導いた大きな要因なのだろう。にもかかわらず脱出に成功しバラバラにそれぞれの故郷に戻っていった仲間とその後全く交流がなかったという。無事苛酷な旅を終え病院に入ってからこれまでの緊張感から一気に解放された反動なのか肉体だけでなく精神的にもリハビリが必要だったようだ。この辺りもその後の再開がなかった原因なのかも知れない。
本作を例えば無人島漂流記や厳しい自然を耐え抜いた冒険記と同じジャンルで扱うには戦争や社会体制が彼らに与えた課題は大きすぎると思う。人間の残酷さを思い知らされる一作。
しかし、これだけの作品が日本では50年間翻訳されなかったのはどうしてなのだろうなぁ。