文庫本全4冊におよぶ大作。おそらく
榎本武揚の名前を初めて見たのは小六の社会の教科書。
伊藤博文を首相とする日本で最初の内閣の構成を記した資料だったと思う。他の新明の下にはその出身母体薩摩や長州と記されていたのに彼の名の下には旧
幕臣と記されていた。しかも
旧幕府軍が最後まで抵抗した
五稜郭の戦いの大将。一番最初に首を切られてもおかしくないはずなのに
明治新政府内でも一定の役割を果たした人物。いったいどんな人物なのか興味を持ってからウン十年。ようやくその一端がつかめたと思う。この本を読んで興味深かったのは武揚の敵役、特に前半部分は
薩長明治新政府軍ではなく
勝海舟と
徳川慶喜。この二人を振り切れなかったのが武揚の限界でもあるが又魅力でもある。
薩長明治新政府軍が勝ち組で、
徳川幕府側が負け組、あるいは
明治新政府軍が
開明的で進歩派、それに対して
徳川幕府側は旧来の制度に
固執した頑迷な保守派という単純な歴史の見方が誤りであることを示してくれる。
歴史に”もし”は無意味であることは重々承知の上で、広く世界に向けて視野を広げていた武揚の手腕が新政府内でもっと生かされていたら明治以降先の敗戦に至る戦争の時代は大きく変わっていたのではないかと思うと残念でならない。