新リア王

新リア王 上
新リア王 上
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高村薫
新潮社 (2005.10)
ISBN:4103784040
価格:\1,995
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  以前読んだ晴子情歌に続く福沢家に焦点を当てた大河小説の第2部。
第一部では母晴子と息子彰之との往復書簡の形をとっていたが本作では父福澤榮と彰之との対話が中心となっている。
父榮は大臣の職にも就いたこともあり保守王国青森の王とも言える存在。彰之は息子ではあるが婚外子。ファミリー企業や後援会幹部、金庫番などが親族で固められている中、一人大学卒業すると遠洋漁業に出故郷に帰ってきたと思ったら出家してしまった一族の中では異端児。
 この親子二人が二人っきり寂しい草庵で会話を交わすのだけれども・・・・。
 息子彰之の方は淡々と自分と家族の話を聞かれるがままに語るが、父榮の方は聞き手である息子の存在を忘れたかのように一方的に語り続ける。舞台は87年だが回想の舞台は80年衆参同日選挙からこれまでの数年間。
 地方の政治家の役割と言えばどうやって中央から公共事業(=金)を引っ張ってくるか。引っ張ってきた金をいかに地方に分散させるか。もちろん分散する際に考慮するのはこれが自分の票にどう結びつくのか。政治家本人が前面に出る場合もあるが当然秘書や金庫番、地元首長、他いろんな人がその金にかかわってくる。
二人っきりの回想シーンは上にも書いたとおり読んでいて疲れるのだが、一気に現実に戻り関係者がみな集まって改めて回想するシーンでこれまで語られたことがようやく現実感を帯びてくる。相手を意識しない独白は読んでいても読者をも意識していないようでどうしてもつらかったが相手が増え相互に会話を交わすようになると一気に読みやすくなった。ただ関係者が集まっての会話を成立するためには長い長い独白が必要だったのも理解できる。大きなテーマは父と子の世代間の意識の差と時代の移り変わりだと思う。父世代の行動様式とその実績を否定破壊して新しい理想を掲げようとするが理想はやはり理想でしかない。それは”新リア王”と言うタイトルにも現れているようだがいかんせんオリジナルの”リア王”に対する知識がまったく無いので・・・・。
 過去の典型的な文字通り我田引水と言うべき政治手法のひとつの終わりを描くことによっておそらく今後書かれるであろう続編では新しい世の中が描かれるのだろうがその新しい世の中も実はそう対して変わりは無いことを著者も読者も承知しているところが味噌か。
 おそらく第3部で完全な代替わりが果たされるのだと思うがその作品で彰之がいったいどのような役割を果たすのか。又他の高村作品の重要人物がチラッと顔を出したが彼の登場機会は第3部で増えるのか、楽しみは尽きない。
 しつこいようだが前半のテンポは結構読んでいてつらかった。新聞連載で細切れに読んでいた人はもっとつらかったのではないか。その反動が今のアイルケにあるのかなぁなどとも思ってみたり。