八月十五日の神話〜終戦記念日のメディア学

 太平洋戦争(この戦争の呼称についても色々主張はあるんでしょうが)が終わった日はいつですか?そう聞かれたとき99%以上の人が昭和20年8月15日と答えると思う。しかしこれは世界の標準とは異なる答え。世界の標準であればポツダム宣言受諾を連合国側に通告した昭和20年8月14日、もしくは降伏文書に調印した昭和20年9月2日ということになる。敢えて他を上げればサンフランシスコ平和条約に調印した昭和26年9月8日もあるがこれだと平和条約を結んでいない旧ソ連(現ロシア)とはまだ休戦状態にあることになってしまい戦争が終わっていないことになってしまう。
 では大部分の日本人が終戦の日といわれてなぜ8月15日と答えるようになったのか。メディアの影響力、学校教育の影響力両面から調べていく。学校教育の影響力については教科書の表記の比較を丹念にしていくのだが細かいデータの羅列で正直退屈の面もあったのだが全体として日本人が”降伏”を認めたがらず、”終戦”の”聖断”が下ったという事実で理解したがるという心情はすごく良く分かるし大変面白い指摘。
 また8月15日は一般にお盆の中日にもあたりそれが追悼の日という意義をより増幅するわけだがこれについても、旧暦のお盆、新暦のお盆、月遅れのお盆と各地それぞれの事情で行われていたのがラジオを中心としたマスメディアの力で全国均一になっていく過程は今にも通じて大変興味深い指摘だった。
 今年は戦後60年ということもありいろんな視点で先の戦争を振り返る企画があったがその多くが終戦の日=8月15日という規定については何の疑問も無く受け入れていたはず。ごくごくあたりまえと思われている”事実”を検証しその歴史的意義を再確認する実に有意義で面白い本。佐藤卓己師の本はこれまで何冊か読ませてもらったがそのユニークな発想の基点と緻密で細かい検証には全く頭が下がる。次回作にもぜひ期待したい。