ドナウよ、静かに流れよ
で、読んでみるとノンフィクションとはいえテーマには恋愛が絡んでいた。ある日、ふと見つけた新聞記事には19歳の女性留学生と33歳の自称天才指揮者の二人がドナウ川で心中したと報じる。この記事に妙な違和感を感じた著者は、19歳の少女の母親がかつて将棋の女流アマ有名棋士だったこともあり彼女の両親の話を中心に心中した二人を追う旅が始まる。
これまでに読んだ”聖の青春”や”将棋の子”とは全く違った意味で読んでいてつらいものがある。二人は既に心中してしまっているのだから本当の気持ちなど分かるはずも無いのだけれど、分かるはずなど無いことを承知の上で追いつづけるもどかしさやじれったさが全編を被う。
もどかしさやじれったさはもちろん読んでいる僕にも伝わってくる。作品を最後まで読み終わってもこのもどかしさははっきり解消されるわけではない。ではつまらなかったかと聞かれるとそうではない。心中事件の真相を知るというよりもむしろその事件を追いかける著者を読者として追いかける本。決して読後感のいい本ではないがもどかしさも含めて著者と共感できる本。