サラン〜哀しみを越えて

サラン
サラン
ISBN:4163239405
価格:\1,700
posted with 簡単リンクくん at 2005. 7.17
荒山徹
文芸春秋 (2005.5)
通常24時間以内に発送します。
 久しぶり刊行された荒山徹氏の新作は短編集。どの作品も舞台は秀吉の朝鮮出兵前後の日本と朝鮮半島。とここまではこれまでの氏の作品と共通なのだが内容は大きく異なる。これまでの作品は朝鮮出兵や朝鮮通信士来日の裏で繰り広げられる日朝間の忍術合戦。山田風太郎を思わせるような奇妙な忍術を使っての戦いぶりが氏の作品の魅力であった。しかし本作では戦いのシーンはほとんど出てこない。戦いに巻き込まれた人たちの悲劇がテーマになっている。もう一つが両班制度を元にした当時の李氏朝鮮政府に対する厳しい評価。文班と武班の対立が秀吉軍侵攻を早めたことは勿論、戦いに巻き込まれた朝鮮の民衆達を両班が見捨てて逃げていく場面が多々描かれる。そして民衆達も両班の為だけにある朝鮮という国に愛国心を持たず却って日本軍に協力的であったりまた日本に連れてこられた彼らを母国に戻すよう迫られても喜んで帰るものなどいないことが描かれている。勿論これは小説であるからどこまで歴史事実にも基づいているのか分からないが形式主義に陥り硬直した両班制度であればこういう人たちがいてもおかしくないように思われる。こういう歴史解釈は抜きにして、歴史の流れに巻き込まれた人たちの悲劇が良く書けていると思う。救いのない話が多くてこれまでの氏の作品をイメージして読むとがっかりするかも知れないがこういう短編集だと思って読めばいい感じではないか。さて氏の次の作品はどのようなものになるのだろう。それがとても気になる。