側近No.1が語る西武王国その炎と影〜狂気と野望の実録

西武王国
西武王国
ISBN:4882030411
価格:\2,100
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中嶋 忠三郎
サンデー社 (2004.12)
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\2,100
 元西武社内弁護士だった筆者が語る西武王国と堤一族の実情。元々平成2年に刊行予定だったものがその直前に西武側に買占められ事実上発禁状態だった幻の本が新装版となって再刊行されたもの。とは言え筆者は既に平成10年に他界しており、後書きには”新装出版にあたって”の一文が息子により書き付け加えられている。
 筆者は元々学生時代、直談判し毎月学費の援助を得ることをきっかけに堤康次郎氏と縁ができる。大学卒業後司法試験に合格、裁判官を務めた後外務省に入り上海総領事などを勤めるが終戦後、堤康次郎氏に請われて西武に入社社内弁護士として堤康次郎の側近として腕を振るうことになる。堤康次郎氏に関する本を読めば必ず氏の土地に対する執着心と強引な買収劇が話題に上がるがその買収の実質的な責任者として活躍した方でもある。もちろん当事者であるから”強引”などと言う記述はなくむしろ正義感と使命感に基づき誠意を持って交渉買収したことになるのだけれど。
 面白かったのは後に箱根で大戦争を起こす五島慶太氏とのかかわりの部分。戦前五島氏とその息がかかった軍部・鉄道省による交通統制に懲りて西武鉄道の都心への乗り入れを拒否したそう。西武新宿駅があんな中途半端な位置にあるのもそのせい。また戦前西武は荻窪から中野を通って新宿に通じる路線を持っていたがそれも東京都に譲渡してしまったと言う。これって今の丸の内線の一部なんですかね。学生時代の恩や入社の経緯もあって”西武”という会社のために働くというより”堤康次郎氏”のために働く意識が強かったようでその意識はこの本全編を通して感じられる。
 従って戦後の西武王国拡大の軌跡を時系列に自分の果たした役割を加えて執筆する前半と堤康次郎氏死去以降の後半ではがらりと変わる。いきなり堤家の内情や異母兄弟である清二氏・義明氏の微妙な関係について筆を進めていく。本書執筆のきっかけは堤義明JOC会長突然の辞任だったよう。辞任報道の中に”西武の利益にならないと分かるとわずか8ヶ月でJOC会長を辞任する無責任男”との評がありいてもたっても入られなかったよう。だとしたら余計、康次郎氏をめぐる3人の女性や清二氏・義明氏の間の確執などを記した本が偉大であった康次郎氏を見習い兄弟手を取り合って西武王国を発展させるきっかけになってほしいなどと本気で思って書いたのだろうか。しかも自分と合わなかったり自分に冷たい対応をした人間に対してはあからさまに悪意を持った書き方をしているようにも思う。堤康次郎氏への忠誠心とそれにのっとって自分のしてきた仕事への自負がそうさせたのかもしれないが書かれた人間からすればたまったものではないだろう。事前の全点回収とそれによる実質的な発売停止処置はもちろん許されるものではないが。
 自らが直接の責任者ではなかったようだが堤康次郎氏の生前から遺産相続をどのようにすればよいかと苦心した記述もある。その苦心の結果が昨年来の西武のごたごたの原因の一つとすれば著者はどのように思うのだろう。新装版を改めて刊行する決意し一文を寄せた息子さんも西武グループの社員として活躍していた方のようだが(現在もグループ内にいるのかどうかは不明)このタイミングでの再刊行が本当に父親の遺志に沿うものだと思っているのだろうか。