喜劇の殿様〜益田太郎冠者伝(ISBN:4047021229)

喜劇の殿様(角川叢書 22)
高野正雄著

出版社 角川書店
発売日 2002.06
価格  ¥ 2,940(¥ 2,800)
ISBN  4047021229

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 以前、小三治師匠の”かんしゃく”を聞いた際に(小三治師匠が高座で触れていたのか後でネットで知ったのかは忘れたが)この噺の作者である益田太郎冠者の名前をはじめて知った。
 益田太郎冠者(本名益田太郎)はタイトルに”殿様”とある通り文字通りのお大尽。彼の父男爵益田孝は三井物産創始者にして初代社長。また鈍翁という号を持ち茶道具の一代コレクターとしても知られた方。*1。太郎自身も後に台湾製糖社長などを歴任しており父をついで男爵位も得ている。一方で太郎冠者というペンネームで(実は他にもいくつかのペンネームを持っているのだが)自身のロンドン留学などの体験を下にした作品などを書き喜劇作家として活躍する。また、帝国劇場の創立メンバーにも名を連ね文芸担当重役担当取締役にも就任し、特に女優の育成にも力を入れた。お大尽に対するやっかみや喜劇・笑劇に対する低評価もあって今では忘れられた人になっているがその活動は決して無視できないものであるし、内容紹介を読むと喜劇そのものもなかなか面白そうなものが多い。落語作家としても活動は小唄の作詞とともに太郎冠者の余芸として紹介されている。それによると先の”かんしゃく”の他、”洋行帰り””女天下””柱時計””ハイカラ自動車””りんきの見本””堪忍袋”それに今でも高座によくかかる”宗論”の七編が太郎冠者作の落語であるとはっきりしているらしい。また、”動物園”も氏の作品であるといわれているそう。”動物園”はてっきり上方発祥の新作と思っていたのでちょっと意外だった。また”かんしゃく”に出てくるだんな様は太郎冠者本人をモデルにした作品だそう。残念ながら僕は聞く機会に恵まれなかったが六代目春風亭柳橋師匠は太郎冠者とお付き合いがあったそうで本書でも証言を残しているし”洋行帰り”などはよく高座でもかけていたそう。
 尚本書の作者高野正雄氏は元毎日新聞文芸担当記者で、担当していた獅子文六氏から太郎冠者をモデルにした連載小説を書きたいと資料集めを依頼されたそう。残念ながら獅子文六氏がなくなったためその作品は幻となりその際に集めた資料を基に本書が執筆されたわけだがこの方をモデルにした小説がもし書かれていればなかなか面白い作品になっていたように思う。真に残念。