軍国日本の興亡 日清戦争から日中戦争へ(ISBN:4121012321)

軍国日本の興亡(中公新書 1232)
猪木正道

出版社 中央公論新社
発売日 1999.05
価格  ¥ 840(¥ 800)
ISBN  4121012321

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 本書のまえがきに著者の主張するところが端的に書かれている。

戦前・戦中の軍国主義は、戦後の空想的平和主義と見事な対照をなしている。(中略)

広く深く根を張った空想的平和主義がいったい何に起因するかを考察して、私は戦前・戦中の軍国主義を裏返しにしたものだと気付いた。(中略)

軍事的価値を不当に過大評価する軍国主義に劣らず、軍事的価値を不当に過小評価する空想的平和主義も愚劣であり・・・(中略)

軍国主義と空想的平和主義とは、互いに相手の裏返しだと言うのが、本書の原典であり、結論でもある。

 この結論に基づいて、不当に過大評価された軍事的価値に基づいて暴走していく軍部とその暴走を止められなかった政党・政治家双方の無能さを厳しい言葉で記していく。この本が出版された1995年は社会党村山富市内閣の年。著者の言う空想的平和主義に対する苛立ちが増し、この本を記す動機になったのかもしれない。では、過大評価も過小評価もされない適当な軍事的価値による国際貢献とはどのレベルを言うのか、今小泉首相が盛んに言っている国際貢献と一致しているかどうかは判らない。
 明治維新以来の元勲や昭和天皇に対する高評価や、”たられば”の記述が多いことは気になるが、戦前の軍部の暴走とその結果”自爆戦争へ”(本書最終第18章章題)となだれ込んでいく過程を昭和からあるいは5.15事件や2.26事件以降から記述するのではなく日清戦争から書いてくれている点がより理解を助けてくれる。最初に書いた著者の主張を受け入れられるかどうかはそれぞれの立場によって異なるだろうが”軍国日本”の通史として読む分にはお勧めできると思う。