言論統制〜情報官・鈴木庫三と教育の国防国家(ISBN:4121017595)

言論統制(中公新書 1759)
佐藤卓己

出版社 中央公論新社
発売日 2004.08
価格  ¥ 1,029(¥ 980)
ISBN  4121017595

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まずは著者佐藤卓己氏本人のサイト*1よりこの本の紹介文を引く。

 言論界で「小ヒムラー」と怖れられた軍人がいた。情報局情報官・鈴木庫三少佐である。この「日本思想界の独裁者」(清沢洌)が行った厳しい言論統制は、戦時下の伝説として語りつがれてきた。だが、鈴木少佐とはいったい何者なのか。極貧の生活から刻苦勉励の立志伝。東京帝国大学で教育学を学んだ陸軍将校。学界、言論界の多彩なネットワーク。「教育の国防国家」のスローガン。新発見の日記から戦時言論史の沈黙の扉が開かれる。

  一般に戦前の言論弾圧と言えばどのような場面を想像するだろうか。ひとつは新聞雑誌書籍を検閲し、軍部の意向に沿わないものは有無を言わさず発禁処分にしてしまう偏屈で何もわかっていない軍人。もうひとつがそういった弾圧にも負けず自分の信念を持って作品を執筆しその結果、厳しい拷問にあって死んでしまう。後者の一番有名な例が小林多喜二とするならば前者の軍人の典型例がこの本で取り上げられた情報官鈴木庫三。検閲だけでなく当時配給制だった用紙の配分する権限を楯に言論界を牛耳った”悪の権化”としてこれまで扱われてきた。しかし、”悪の権化”だったがゆえにまともな研究対象とされてこなかった。 今回見つかった鈴木庫三の膨大な日記他資料を基に”悪の権化”のレッテルをはがしその実情に迫る。
 鈴木庫三に張られたレッテルは戦前の言論に携わってきた人・会社にとって免罪符だった。戦前に行った戦争賛美につながる言論はすべて弾圧の結果強制的にさせられたものであり決して本位ではなかったと言う証が必要だったのである。しかし戦前用紙を手に入れるために鈴木詣でを繰り返し擦り寄ってくる出版社を毛嫌いし軽蔑していたのも鈴木庫三だった。
 鈴木庫三に張られたレッテルをはがさんがため、著者の鈴木庫三を見る目が贔屓目に過ぎるような気がしないでもない。しかしそこを差っぴいてもこれまでの歴史を見る目をひっくり返し目からうろこをぼろぼろ落としてくれるなかなか面白い本。お勧めです。