相続税が払えない 父・奥村土牛の素描を燃やしたわけ(ISBN:4890368906)

相続税が払えない
奥村勝之著

出版社 ネスコ
発売日 1995.03
価格  ¥ 1,529(¥ 1,456)
ISBN  4890368906

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 著者は画家奥村土牛の四男で末っ子に当たる方。タイトルだけ見ると相続税をどうしても払えず家族総出で泣きながら、父土牛の素描をそれこそ遺体を火葬にするように燃やしたように受け取れるが実はそうでもない。なんと言っても大量に残された素描を国税局の委託を受けた鑑定人が来るまであまり時間がないので感傷に浸るまもなくどんどんと処分をしなければならなかった。この本の本題はその後残った素描他作品、不動産など遺産の全容がはっきりし負担すべき相続税額が決まった後の話になる。
 遺産相続を受けるのは土牛の妻と実子六人の合わせて七人。最初に書いたとおり著者は末っ子で相続人のうち一番年下でまたサラリーマンをしていた関係で父のマネージャーをしていたり美術品を扱う仕事をしていたほかの兄弟に比べて客観的に見られる立場にあった。とはいえやはり当事者の一人でありこの本も7人の相続人の内の一人が見た物に限られる。著者本人も認めているように残った6人の相続人にもそれぞれの立場で言いたいことはあるだろう。奥村家の場合一番最初に家族でもめることはしないようにしようと言う同意がなされ淡々と事務的に遺産相続が進む。著者勝之氏も兄弟の指示に従いながらしかも自分の強い意思で相続税を払い続けていく。家族・兄弟の間の骨肉の争いを期待する人にはちょっと物足りないかもしれない。それでも相続税を払い続ける大変様はよく伝わってくるし兄弟みんなが一枚岩と言うわけでもない。
 僕にはまったく縁のない話とはいえ相続税制の矛盾や問題点、大変さも伝わってくる。本当に払う必要のある人には実用書のような役に立つ本も多く出版されていると思うがちょっとした興味本位で読むくらいならちょうどいい本。