野中広務差別と権力(ISBN:4062123444)

野中広務差別と権力
魚住昭

出版社 講談社
発売日 2004.06
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  4062123444

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 文字通りの力作で大変興味深く読ませてもらった。この本を読む前に僕が持っていた野中広務のイメージといえば”政権を裏で操る強面の人”。これは確かに彼の持つ一面ではあるのだがもう一方で彼は京都の被差別部落出身という顔を持っていた。彼の評伝を書くためにはその出自は避けて通れないものなのだが、その根深い問題ゆえに本人はもちろん周囲の人たちの口も堅く取材・執筆活動は困難を極めたよう。ただ彼はそれを昔からずっと隠してきたわけではない。被差別部落出身だからこそ身についた政治手腕、特に調整能力は彼が町会議員から町長、府議会議員、副知事、そして国会議員と上り詰めていく過程で大いに役に立ったともいえる。もちろん、積極的にそれを表に出していたわけでもない。この本の元となった連載記事が雑誌に掲載された際、著者は野中氏本人に” 「君が部落のことを書いたことで、私の家族がどれほど辛(つら)い思いをしているか知っているのか」と、涙をにじませた目で睨み付けられたという。
 その強引とも言える政治手腕とイラク派兵に一貫して反対し続けた一見矛盾するように見える二面性のルーツがこの本にはっきりと書かれている。
 ではこの本を読めば野中広務氏のことがわかるのかというとそう簡単ではない。野中広務という人の奥底に何かあると感じさせるがそこはあまりにも深くなかなか到達しない。
 ではこの本はつまらないのかというとそうではない。通り一遍等に人をほめるだけの評伝ならば彼に何か隠されているということすら伝わらないだろう。野中氏の持つ迫力とその奥深さが十分に伝わる力作。それはこの本を取り上げた書評、サイトの多くが触れているエピローグでの麻生太郎氏との対決シーンの迫力を読むだけでも十分に伝わってくる。麻生氏本人がどう考えているかわからないがこの対決で彼の総理への道がかなり遠のいたといっても過言ではないのではないか。くどくどと書いたが一人でも多くの方にぜひ手にとってもらいたい本。