アラブ政治の今を読む/池内恵/中央公論新社(ISBN:4120034917)

アラブ政治の今を読む
池内恵

出版社 中央公論新社
発売日 2004.02
価格  ¥ 2,730(¥ 2,600)
ISBN  4120034917

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なかなか面白い本を読んだ。著者は73年生まれ若手注目株のアラブ・イスラム研究家。(ちなみに父親はドイツ文学の池内紀)一冊の単行本として書かれたものではなく9・11からイラン戦争までの約二年間さまざまな媒体に発表された文章を集めたものになっている。そのため一部に重複する内容もあるが一般紙に発表された短くまとめられた文章なども収録されており僕のような素人には却って読みやすくわかりやすい。この本の中でまず目を引くのが既存のアラブ・イスラム研究者の研究姿勢や既存マスメディアによるアラブ・イスラム社会の報道姿勢を批判する点。日本国内では非専門家にとってアラブ・イスラム社会を理解することが困難であることを逆手にとってえらそうにふんぞり返る姿勢を批判し、”世間の関心が何度もアラブ世界・イスラーム世界に及びながら、いまだ十分な理解をえられていないとすればそこに研究者の責任は大きいと考えるからだ”(P.57)と述べている。
 そこで彼が論じる基本となるのがアラブ社会をアラブの内側にいる人たちの視点から論じようとするもの。ごく当たり前のようだが日本の現状はそれには程遠い。研究者だけでなく報道マスメディアもアメリカの視点(それを肯定する側も否定する側も)を通してしかアラブ社会を見られていない。アラブの内側にいる人たちにとってアルジャジーラという放送局が果たす役割は何なのか。彼らはイラクをどのように見ているのか。アメリカがイラクを制圧し民主化した場合、アラブのほかの国にどのような影響が広がるのか、それを各国の指導者たちはどのように見ているのか。そして何よりもイラク国民はフセイン政権が倒れたことをどのように考え代わり入ってきたアメリカの占領軍に何を求めているのか。きちんと論じてもらえばごくごく当たり前のことも何も知らず自分がこれまでいかにステロタイプな戦争報道に踊らされていたのかがよくわかる。おそらく今後これまで以上に活躍の場が広がるであろう期待の論客。その言動を追いかけてみたい。