血脈

血脈 上
血脈 上
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佐藤愛子
文芸春秋 (2005.1)
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ISBN:4167450089
価格:\840
 表紙をめくったカバー袖に”(前略)父の作家・佐藤紅緑、異母兄のサトウハチローを始め、佐藤家の人々の凄絶な生の姿を描いた大河小説「血脈」の完成により平成12年第48回菊池寛賞を受けた。”とある。実は”・・・を始め、佐藤家の人々の”と言うところが本書の味噌。勿論佐藤紅緑サトウハチロー(小説内では本名の洽六(こうろく)、八郎と書かれている場面が多いので今後はそれに合わせる)、そして著者佐藤愛子自身も結構とんでもない人間で彼らにまつわるエピソードも満載。しかし彼ら以外の一族の人たちはもっと”ヒドイ”。彼ら三人は曲がりなりにも文学の世界で名をなしそれに従いきちんとした収入も得たがその他の人たちでまともに稼げている人は誰もいない。妻や愛人(の家族)、そして父や兄妹にたかって生きている。人にたかって生きているのだから謙虚でつましい生活なのかと言えばそうにあらずむしろ逆の生活をしようとする。しかしたかられた方もこのどうしようもない人たちを何とか更正しよう、立ち直らせようとせず、”佐藤家の人間はこうなんだから仕方がない”と割り切っているところがすごい。それにしても戦前父洽六の手を煩わせた八郎の弟たちと戦後八郎の手を煩わせる彼のこども達や愛子の夫の手の煩わせ方にはその規模や迫力に差が感じられるのは時代のせいなのかそれとも人物の格や規模が小さくなってしまったのか。
 この作品前半のキーパーソンはたかられ苦労しながら自分は自分と割り切っている洽六二番目の妻シナだったと思う。シナが亡くなると割り切り冷めた目で一族を見る役割が愛子自身に移るがシナの死がある意味でのクライマックスでそこから後はそれまでの余韻を感じながら読んでいたように思う。上にも書いた登場人物達の規模の小ささが余計にそう感じさせたのかも知れない。
 作家が自分だけでなくその一族を描く大河ドラマでは加賀乙彦との永遠の都から雲の都に引き継がれている作品も読んでいるが全く違う作品。
 あえて本作の難を挙げれば、愛子自身は経営能力に欠け借金ばかり重ねる夫に苦労させられる立場ばかりでご自身やそのこども達の話がほとんどでてこないのが残念。
 少し余談になるが森繁久彌長谷川一夫の妻が映画のカメオ出演の様に一瞬出てきたのが面白かった。
「血脈と私」や「淑女失格」(日経新聞私の履歴書改題)などの関連書籍も手に取ってみようと思う。おそらく今後何度か読み返す可能性のある作品。大変面白うございました。