無国籍(ISBN:4104740012)

無国籍
陳天璽

出版社 新潮社
発売日 2005.01
価格  ¥ 1,470(¥ 1,400)
ISBN  4104740012

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以前より拝読しているBlog”historical amnesia*1で紹介されているのを見て手にとって見た。
 ”無国籍”と言われても日本に生まれ日本国籍を持ち日本国内で生活しているとなかなかぴんと来ない。残念ながら僕は未だ見ていないのだがこの本の後半でも紹介されている映画”ターミナル”ではじめて知った人も多いかもしれない。
 この本は自信も無国籍であった著者(現在はその研究活動のため各国を飛び回ることが多く日本国籍を取得)が自身の体験と、今も日本国内や海外にいる無国籍者の実情と彼らに対する支援活動の状況を伝える。
 著者の両親はともに中国大陸の生まれだったが国共内戦の際に台湾に渡り、後日本にやってきた方。横浜中華街で商売をし著者もそこで生まれた。著者の生まれた翌年の1972年日本と中華人民共和国との間で国交正常化がなされ同時に中華民国との国交が断絶された。中華民国籍であった両親はそのとき無国籍であることを選択しその娘である著者も無国籍となった。
 著者からすると不本意な読まれ方かもしれないが、日本国内や世界各国にさまざまな事情で無国籍状態に置かれた人々の実態を伝える後半部分よりも、高校進学を機に、自分の置かれた立場について考え悩み、やがて”無国籍”と言うアイデンティティをつかむまでの過程を書き連ねる前半部分のほうが僕には心打たれた。
 この本の中に書かれた政府、役所の文字通り”お役所仕事”的な対応を読んでいると少し前に報じられた国連難民高等弁務官難民認定されていたトルコ系クルド人強制送還や形ばかりのフィリピン人看護士、介護士受け入れのニュースを思い出し、掛け声ばかり勇ましい日本の国際化につい暗い気持ちになってしまう。
 万博だ、オリンピックだ、ワールドカップだと言う前にもっと身近に真剣に考える問題があることを知る上で多くの人に手にとってもらいたい本。