ふるさとは貧民窟(スラム)なりき(ISBN:4480039732)

ふるさとは貧民窟(スラム)なりき(ちくま文庫)
小板橋二郎

出版社 筑摩書房
発売日 2004.08.09
価格  ¥ 777(¥ 740)
ISBN  4480039732

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 あちこちのサイトで昨年読んだ本の上位に上げられていたので手を出してみた。(但し、今回僕も読んだちくま文庫版が2004年8月刊行だが親本である風媒社版は1993年6月刊行)。
 著者は1938年板橋は岩の坂生まれる。著者が大きくなってから友人に「幼い頃悪さをしたら親に”イノサカ”に捨ててくるよ」と脅されたことがあると言われたらしい。この”イノサカ”とはつまり”岩の坂”のこと。また、物の本によっては「この地域にはあまり伝染病がはやらない。何故ならば元々不衛生なので免疫ができているから」などと書いてあるものもあるらしい。また、明治から戦前にかけて書かれたいくつかの貧民窟に関する報告書や書籍がみなまともな実地取材もせず(軽蔑を含んだ)上からの視点で同情的に書かれているとばっさり否定する。筆者の幼い頃から中学を卒業し”ふるさと”を離れるまでの間に自分で見聞きした体験を事細かに書いていく。大空襲と戦後の復興建築の流れの中で跡形もなくなってしまった貧民窟(スラム)を目の前にさらけ出してくれる。今年は戦後60年だそうだがだとするとほんの50年ほど前まで日本にもこんな世界が現実にあったのだと僕の目の前に突き出してくれた。大正から昭和初期にかけてちょっとこぎれいなモダンな社会を取り上げた本を最近よく目にするが一方でこういう社会もあったということ。と言ってもそう堅苦しい本でも教訓くさい本でもないのでちょっとでも興味を持った方はぜひ手をとってもらいたい。
 著者の本業はルポライター。失礼ながらこれが僕の読んだ氏の最初の著書であるがその著書目録を見ると”ノンフィクションライター”より”ルポライター”という肩書きが本当によく似合いそうな一癖も二癖もありそうな書名が並んでいる。これから少しずつ読んでみたい。巻末には自分の師匠はこの方だけと言ってはばからないノンフィクション作家 山根 一眞氏との対談も収録されている。お勧めです。