緒方洪庵・浪華の事件帳シリーズ2冊(ISBN:488629555X)(ISBN:4886296904)

禁書売り(緒方洪庵・浪華の事件帳)
築山桂

出版社 鳥影社・ロゴス企画部
発売日 2001.04
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  488629555X

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北前船始末(緒方洪庵・浪華の事件帳 2)
築山桂

出版社 鳥影社・ロゴス企画部
発売日 2002.09
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  4886296904

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 サブタイトルに”緒方洪庵・浪華の事件帳”とあるがやや看板に偽りあり(と書くと大げさだが)。まずここに出てくる緒方は後に日本でも有数の蘭学医で適塾を開き明治維新に大きな影響を与える緒方洪庵の若かりし頃で文中には緒方章という名で登場する。彼はまだ中天游の元で医学を学ぶ身分である。確かに彼の身の回りにさまざまな事件が起こるのだが実はそれを解決するのは彼自身ではない。
 四天王寺舞楽法要が催される際、笙や篳篥を奏でたり舞を舞ったりする”在天楽所(ざいてんがくそ)”と呼ばれる芸能集団の楽人である東儀左近将監。物々しい名前だが実は女性。この左近さんがこのシリーズの主役である。彼ら在天楽所は大阪に都があり四天王寺が建立された1000年以上前から大阪の町を陰で支え守り続けてきた一族だった。中でも左近さんは女性でありながら男顔負けの身のこなしで敵を倒し難事件を解決していく。
 以前読んだ”鴻池小町事件帳〜浪華闇からくり”*1もそうだったが大阪はずっと古くから町人の町であり武士・役人が上から押さえつけようとしても素直に受け付けないという気質が全編通じて強く主張されている。
 本シリーズは2冊とも連作になっており合わせて8編収録されている。”事件帳”とあるように最初に事件が起こって左近や緒方章の活躍で解決する時代劇ミステリーの形をとっている。ミステリーといっても謎解きの要素はそう強いものではないが左近、緒方章のなかなか魅力的なキャラクターに引かれて一気に読んでしまった。どの話も最後にスカッとするものではないが何か余韻を残してくれる。
 また、作者の築山桂さん*2は大学で近世史を専攻し現在も小説執筆活動とあわせて歴史研究のほうも怠らない。その成果は随所に出ていて特に本シリーズでは江戸後期の出版事情がよくわかる。
 本2作とデビュー作は失礼ながらややマイナーな出版社から刊行されていたためその存在を知るのに遅れてしまったが以前読んだ”鴻池小町事件帳〜浪華闇からくり”や9月に出た新刊(すでに図書館に予約中←またか)はメジャーどころから書き下ろし文庫として刊行されている。おそらくこれからどんどんメジャーになっていくだろう。その勢いはあると思うのでぜひ今後も追いかけて行きたい。