第1回一凜托生の会 於 上野広小路亭

 今年10月に二つ目に昇進したばかりの田辺一凜の会第1回。実は彼女の講談を聞くのはこれが初めてなのですがせっかくと思い足を運ぶ。
広小路亭はなんと満員大入り。

開口一番 人魚の海(井原西鶴作) 神田あやめ
あやめさん、ちょっと寂しい不思議な感じの噺。講談あまり聴いたことが無いのですが勧善懲悪と言うか最後はすっきりとして終わるイメージがあったのですがこれはそうはならず。最後に井原西鶴原作と聞きこういう伝奇っぽい噺を書いていると知らずちょっと驚きました。

前講 九尾の狐発端〜阿倍仲麻呂吉備真備 倭国入船 田辺駿之介
 九尾の狐発端と書いてますが九尾の狐は出てこず。遣唐使で唐にわたり悲劇の死を迎えた仲麻呂とその後継者としてやはり唐にわたった吉備真備の活躍を描く。最後に演題を言ってくれたのですがきちんとメモできずタイトルはあいまいで申し訳なし。
仲麻呂の幽霊の助けを借りて吉備真備が始めての打つ囲碁で名人に勝ち唐から暦の秘密を書いた本を受け取る噺。でその本を受け取って日本に帰る際船に紛れ込んでいたのが九尾の狐と噺が続くのですが。
駿之介さん、最初はなよっとした雰囲気で大丈夫かなと思いましたが噺が進むにつれて引き込まれていきました。後からあがった一鶴先生によると子供のころから講談をやっていたとか。この独自の雰囲気を残しながらがんばっていただければと思います。

岩見重太郎 田辺一凜
 このネタ、何でも前座時代何度の何度も掛けたおなじみのものだそうだがいかんせん一凛さんの高座初見なのでこの噺も当然はじめて聞く。岩見重太郎と言えば狒狒退治だが(と書きつつ狒狒退治の噺実はよく知らないんですけど)これはその前段、若いころの修行とその後の出世のきっかけとなるエピソード。やりなれているネタだけあってちょっと使えて人名が出てこなくなってもその後すぐに挽回。この挽回を含めて一凛さんらしいのかなぁ。

東京オリンピック+水木しげる妖怪大全 田辺一鶴
 一凛さんのリクエストだそうで東京オリンピックを。生の一鶴先生も初めてなのですが少しのどの調子が悪いように聞こえましたが大丈夫でしょうか。東京オリンピックのときはまだ生まれていないのでこのネタが当時世間に与えたインパクトはよくわからないのですがテレビ映えもするネタでこれで世に出たと言う一鶴先生の言葉も納得でした。
 この後少し時間が残ったのでと言って水木しげるの妖怪の名前を連呼するネタのさわり部分を。何でも一鶴先生水木しげる先生のアシスタントの経験もあるとか。加えて来年から始まる新しい企画の紹介と弟子を後押しするコメントを一生懸命語っていました。
仲入り明けの一凛さんの高座も客席から見たうえに、緞帳が下りた後も客席から他のお客さんに向かって頭を下げている姿が印象的でした。まだまだ長生きして講談のためにがんばっていただきたいです。

お仲入り
出世の富籤 田辺一凜
 岩見重太郎もこのネタももともとネタ出しされていたんだけど。てっきり富久とか宿屋の富と似たような感じなのかなと思っていたらぜんぜん違いました。一凛さんも高座で言ってましたが僕はこの噺に出てくるお内儀のような悟りきった人になれそうにありません。と言っても(富くじとは違いますが)もう半分に出てくるおかみさんのように悪人にもなりきれませんが。
 主人公の井上半次郎が上司に呼ばれて世間話をするシーン、さすがですね。時事ネタをうまく絡ませながら半次郎の性格がうまく現れていたと思います。

 上にも書いたとおり主役の一凛さんも含めて本日高座に上がった方々全員が初見なのでなかなか感想も書きにくい。ゲストで高座に上がった師匠の一鶴先生もしつこいくらいに強調していたが個性が大事と言うことであやめさん、駿之介さんもあわせて三人がそれぞれ独自の講談をかけていたように思います。もう少し講談・浪曲を増やせればと思いました。

終演後は打ち上げにも混ぜていただきいろいろお話も聞けました。これからも足を運びたいと思いますので今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

柳生薔薇剣〜やぎゅうそうびけん

柳生薔薇剣
柳生薔薇剣
posted with 簡単リンクくん at 2005.11.23
荒山徹
朝日新聞社 (2005.9)
通常24時間以内に発送します。
ISBN:4022500557
価格:\1,680
 荒山徹氏の新作。これまでの作品同様戦国から江戸時代初期の日本と朝鮮半島との関係を重視した伝奇小説。といいながら初期の作品に見られる日韓忍術合戦のシーンはあまり見られなくなり歴史の裏に隠された事実(勿論小説ですからフィクションでしょうが)を明らかにしていく方に重点が置かれているように思う。しかも以前の作品は日韓対等もしくは知られざる韓国忍術をクローズアップしていて面白かった。が本作やその前に刊行された”サラン”ぐらいから風向きが変わってきたようで当時韓国にあった厳しい両班制度と身分差別を厳しく批判するような書き方が目立つ。それはそれで面白いんだがもっとチャンバラシーン、忍術合戦シーンのどきどきはらはらがみたい。それにふさわしいキャラクターは出てくるのに生かし切らないまま終わってしまっては読んでいる方が消化不良になってしまう。